なくつづいて、会う女の大抵は見っともなくお白粉をぬった女か魚臭《さかなっくさ》い女で――。
「おむつ」がハタハタひらめくと魚の臭いがプーンと来る、もうほんとうにたまらない。
やっぱりあすこの方が好いからもう二日たったら帰ります。
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そのほかに話相手のないつまらなさに、千世子に会いたい気持なんかを字につり合った口調で書いてあった、色の黒い背《せー》の高くて髪の綺麗ではっきりした口の利《き》けない友達の様子をなんか思い出したりした。
それでも来る日が心待ちに待たれた。
これぞと云った特長もないのに何故《なぜ》こんなにもう七年ほどもつき合って居るんだろうなどと云う事が妙に思われた。
一年も半年も会わないで手紙さえやりとりしなかった時はたびたびでもその次会った時には昨日《きのう》会った人達の様に何にもこだわりもなく打ちとける事が出来たのも、お京さんが思いっきりの音無しい人で自分が我儘な気ままな女だからどうか斯うか保《も》って居たんだ。
そうも思った。そしてお茶時にわざわざ、
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ねえお母様、お京さんはやっぱり大森がいやだって、もう二日したら帰るんだって云ってよこしたんです、雨が止《や》まなくちゃあ困る。
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京浜電車と市街電車で長い間揺られなければならないのに降りこめられては何かにつけて困るだろうなんかと思った。
京子の来るまでの三日は何にも仕《す》る事が無い様な顔をしてやたらに待ちあぐんだ。
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もう今日あたりはほんとうに来て呉れるんですよ、昨日《きのう》だって待ちぼけなんですもの。
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母親に独言の様に云ったりした。
その日の夜千世子は何となし後髪を引かれる様な気持になりながら或る芝居に行って仕舞った。
かなり前から見たいとは思って居たけれど行って見ればやっぱりしんから満足出来るものではなかった。
時々舞台からフーッとはなれた気持になって今時分あの人が来てやしまいかなんかと思った。
それでも身綺麗にした若い人達の間を揉まれ揉まれしてゆるゆる歩いて居る時にはいかにも軽い一色《ひといろ》の気持になって居た。
クルクルに巻いた筋書を袂に入れてかなり更《ふ》けてから「まぶた」のだるい様な気持で帰るとすぐ京子は来たかと女中にきいた。
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