ロといじけて咲く花を見て貴方が『かんしゃく』を起して叱りつけてる様子が目に見える様だ。
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 京子はこんな事を云ってからかう様に笑った。
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「ほんまになあ、
 あほらしい事や。
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 おどけた調子で真面目な顔をして千世子は云った。
 それにつられた様に京子は西京へ行った時の話を丁寧に話した。
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「大阪って云うと京都より塵っぽい煤煙の多い処許り見たいだけど成園さんの描いたあの近所は随分好い、お酌もこっちのより奇麗だし同じ位『すれ』て居ても言葉が柔いからいやな気持がそんなにしない。
『すれ』を上手にごまかして居るのかもしれないけれどすきになれそうなのが少くなかった。
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 こんな事も話した。
 千世子はだまって壁を見ながら、彌左衛門町を歩いて居た時、お酌が大口あいて蜜豆を頬張って居るのを見た時の気持を思い出して居た。
 京子はしきりに千世子の古い処々《ところどころ》本虫《しみ》の喰った本を出してはせわしそうにくって居るのを見て、
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「何にするの?
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 千世子はだるい声で云った。
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「何ねー、
 今して居る仕事の片が附いたら極く新らしい気持で昔の物語りの絵巻を作って見ようと思って。
 気に入ったのが見つからないんだもの。
 ほんとうに何がいいかしらん。
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 京子はほんとうにたずねあぐんだ様に云った。
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「いいのが見つからなかったら自分で物語りを作ったらいいじゃあ、ありませんか、
 何にも昔のでなけりゃあ、いけないって云うわけもないだろうのに。
 自分で作ったものは気に入らなくってもあたる人がないから一番いい。
 それにねえ、若し自分より前の人が自分より達者に同じ物を描いたのでも見るときっと破《やぶ》くか見えない所にしまうかしなければ安心が出来ない様な事が起こって来るもの。
「だって私にはそう都合よく行かないんだもの。
「仕て出来ない事ってありゃしない。
「そう云えばそれっきりだ。
 二人はぽつりぽつりとこんな事を話した。
「あんなにしてわざわざ来てもらっても思いのほかだ」
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 いつもの通りの不平が千世子の心に湧いて来た。
 そう
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