る。
             ○
 北原白秋の『近代風景』はなつかしい。
 ここに梶井基次郎の「筧の音」という散文詩があった。

     問答

「妻たち」が真面目な卓れた作品である。そういう話が同座の人々の中で一致した。あとで、或る人が「しかし、あの人の作品は、純粋であろうとして、現在出来上っている境地をこわすよりは、それを守ろうとする傾向が強いんじゃないですか。その点やっぱり志賀直哉のすじを引いていると云えるんじゃないかな」
「志賀さんが男で、あれだけの天分と、経済力とをもって自分の境地を守り得るのと、一人の女の作家が、いまの世の中でめぐり合うものとは、全くちがうんじゃないでしょうか。防ぎきれるものですか、否応なくこわされますよ。内からも外からも。だからこそ『妻たち』が書けたんじゃないかしら。私たち女はそこのちがいが大したものだと思うのよ」



底本:「宮本百合子全集 第十八巻」新日本出版社
   1981(昭和56)年5月30日初版発行
   1986(昭和61)年3月20日第2版第1刷発行
底本の親本:「宮本百合子全集 第十五巻」河出書房
   1953(昭和28)年1月発行
入力:柴田卓治
校正:磐余彦
2004年2月15日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
前へ 終わり
全2ページ中2ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング