。教会の外壁をまわって通る電車の窓ガラスと、向う側の食堂《ストローバヤ》の扉が、ガーン、ガーン重くけたたましく鐘の音響によって絶えずふるえた。上衣の左右のかくし[#「かくし」に傍点]へウォツカ瓶を突こみ、一本からは時々ラッパのみしつつ、労働者が一人ならんでいる客待ちタクシーのかげを通った。いろんな方角から射出す明りで通行人の顔が歪んで見える広場の辻を、警笛を鳴らしつづけ、赤十字の応急自動車が走り去った。夜のうちで赤い十字が瞬間人々の目をかすめ、光った。
 粉雪はますます降り、鐘の音波はやや雪にこもり、下方から光線をあびる教会の尖塔は雪の降る空の高みでぼやけはじめた。しかし、食料品販売所《コンムナール》では、床にまいた大鋸屑《おがくず》を靴にくっつけて歩道までよごす節季買物の男女の出入が絶えない。
 アンナ・リヴォーヴナは夫と「|鷲の森《ソコールニク》」の娘のところへ行った。そこには、ガスでない白樺薪をたく本物のペチカがあって、アンナ・リヴォーヴナは、例年復活祭のクリーチは、うちのと、娘たち家族の分と、そこで焼くのであった。リザ・セミョンノヴナは芝居へ行ったし、ナースチャの台所では、水道栓からしたたる水の音がきこえるだけであった。
 ナースチャは、踏台をして高い棚の奥から、古びた樺細工の鞄をおろした。布団やなにかと一緒にこれも今朝コンクリートの床の上で警察の犬に嗅がれたものだ。膝の上に鞄をおき、ふたをあけ、ナースチャは、縁に赤い水玉模様のついたけちなハンカチづつみをとり出した。死んだ母親がナースチャにくれた聖像《イコーナ》であった。聖像は、ほんの小さい二寸角ばかりのもので、なんだかわからない古い厚い板に、金もののキリストと聖者がついていた。キリストも聖者も目鼻はなかった。金属板の上に簡単な直線で体と顔面の輪廓だけ刻まれている。ナースチャは片手でその聖像を持ち、片手で自分の胸の上に十字を切った。
 明日早朝焼かなければならぬ肉入パンの種がこしらえてある鉢を料理台の上で片よせ、ナースチャは、その小さい聖像を壁にもたせておいた。三カペイキの小蝋燭の燃えさしをさがし出し、ボール紙の切端に蝋をおとして立て、二本の蕊に火をつけた。自分の大さにつり合った蝋燭の焔を受けて、聖像のキリストと聖者とはうれしげに台所のなかで輝いた。ナースチャは、本当の聖壇の前でするように、聖像の前に立ち、
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