出した。黒石油は重く、泥が煮えるように湧き立っているのである。
二露里ばかり行ったところに白石油だけが出る油田があった。数ヵ所で試掘が行われてい、その工事監理の事務所が風当りのつよい丘の上にバラック建でつくられている。通りすがりの窓から内部の板壁に貼ってある専門地図、レーニンの肖像、数冊の本、バラライカなどが見えた。キャンプ用寝室も置かれてある。
折から手のすいていた四五人の労働者に、珍しく更紗のスカートをつけた若い女が一人混って、試掘の行われている場所を見物した。ざっと結った柵の中で、やはりポクポクして崩れ易い周囲の泥に石油の色を滲ませて、透明な油が湧出している。強い風にもかかわらず揮発する石油の匂いが面を打った。案内して来た技師は、暫くの間素人である自分達を忘れて、責任者らしい落着いた労働者と身を入れて専門の話をし、やがて、同じ真面目な口調で、云った。
「ここの白石油は非常に良質で、全く我々の宝です。……まだ砂が出るので、こうやって開けてあるが、もう一週間ぐらいのうちに、万端設備が終るでしょう」
また労働者と話し、再び自分たちに向って、仕事の価値を知っている者だけの示す叮重さ
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