きであった。職権、或は職業的解釈より前に、一個の具体的人間であるべきであった。そういう風に心が生きて生活にふれていれば――生活の自覚に充たされているならば、誰にしろ、敢て「最初に石をなげる者」とはなり得なかっただろうと思う。
ところが、この災難は起訴された。執行猶予ということは、不起訴になったということではない。起訴した検事局は、どこまでも刑法に該当するものとして、ただ処罰を猶予したに過ぎなかったのである。法律上は素人である平凡なおとなしい市民は、このことからどんな印象をうけたであろうか。今日になっても、検事局は、やっぱり恐ろしいところであるという強い感銘を与えられた。常識では、災難と思えるところに、摘発の専門家の手にかかると、法律上犯罪となる条件が見出され得るということは、一般人の信頼を、安らかさに置くよりも、気味わるく思わせる。
もとより悪質な諸犯罪、殺人、お家騒動のからくりに対しては、十分専門家としての追究が必要とされる。これから実現する戦時利得税、財産税をすりぬけようとして、大小の各財閥が工夫をこらすであろう術策などは、きっとその専門家的欲望の対象となるであろう。
民主的
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