た。
 私共は、通りぬけて砂丘の間を過ぎ、広い波打ちぎわまで余程の距離のある海辺に出た。寂しく、風があり、寒い。左手はずっと砂丘つづきで、ぼんやり灰色にかすんでいる。其方の方に向って、私の家の女中が一人で一生懸命に走って行く姿が小さく見える。良人が、
「何にしに行くのだ?」
と云うようなことを訊いた。私は其方を眺め、なかなか遠く迄行かなければならないと思いながら、
「一寸買いもの」
と返事をする。――
 半分夢の裡で、「ああ斯う水の夢を見るのは寒いのだ。」と考えるうちに目を醒ました。
 別に大して寒いのではなかったらしいが、左*一番奥の歯がすっかり浮いて、到底しっかり口がつむれないようになっていた。
 種痘したところにも或る刺戟を感じる。仰向いて暗い天井を見ながら、見たばかりの夢の材料を一々詮索しておかしく思った。
 家の普請や白木の目立った種は昨夕、エッチの処で或る人が豪奢な建築をし白木ばかりで木目の美を見せる一室を特に拵えたと云う話を聞いた。それに違いない。海岸は、矢張りその時話し合った鎌倉のことと感動して聴いたストウニー・アイランドの影響だろう。うちの女中は、本当によく駈ける。北
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