青田は果なし
宮本百合子

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【テキスト中に現れる記号について】

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(例)〔一九四六年八月〕[#地付き]
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 用事があって、岩手県の盛岡と秋田市とへ数日出かけた。帰途は新潟まわりの汽車で上野へついた。
 秋田へ行ったのもはじめてであったし、山形から新潟を通ったのもはじめてであった。夏も末に近い日本海の眺めは美しくて、私をおどろかした。が、それよりも身に沁みじみと感じて見てとおったのは秋田から山形に及ぶ広大な稲田の景色であった。
 汽車が秋田市を出発して間もなく、窓の左右は目もはるかな稲田ばかりの眺めとなった。はるか左側に雄大な奥羽山脈をひかえ、右手に秋田の山々が見える。その間の盆地数十里の間、行けど、行けど、青々と茂った稲ばかりである。
 関東の農村は、汽車でとおっても、雑木林をぬけたところには畑があり、そこでヒエが穂を出しているかと思うと、南瓜畑があり、田圃の上にはとうもろこしのひろい葉がゆれている。草堤に萩が咲いていたりもする。
 ところが秋田から山形沿線の稲田のひろがりには、見ているうちに、一種こわいような気がして来
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