源泉となった。
 マルクス=エンゲルス全集については、またもう一面の苦労があった。それは、翻訳の文章がむずかしいことである。ドイツ語のよめる人はいつもドイツ語の原文はよくわかると云っていた。これまでの改造社版ができた頃の日本の解放運動のなかで、一つの癖のように使われたぎくしゃく[#「ぎくしゃく」に傍点]した明晰を欠いた文章がひっかかりとなって、たださえむずかしい部分が、まるでむずかしかった。ほんとに頭が痛くなった。マルクス=エンゲルスの論理的な文章と日本語の構成的集約的でない言語の性格との間から、がたがたしたところができていたのだろう。
 こんど新しくマルクス=レーニン主義研究所からもっとも信頼できる人々の手でマルクス=エンゲルス選集が出版されることを私はひじょうにたのしみに思い、よろこばしく思う。こういう本は、学問上の一定のむずかしさはさけがたいにしろ、こんなに急速に発展する人類の生きている古典として、だれにでも、その人の必要と理解力に応じて役に立てられてゆくものでなくてはならない。マルクス=エンゲルス全集というと、その書籍を飾っておくこともその一部分をよんだということも一つのこけお
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