今日の若い人々が経済事情をけとばしたような抽象的な学生生活を語るなら、その虚構の観念性を、誰よりも先ず若い人たち自身が軽蔑するであろう。
先ごろ何かのグラフィックに大学教授の老先輩が男女学生を集めて面白可笑しく学生アルバイト漫談をしている記事がのっていた。そのなかで、男妾のようなことをやっているものがあったそうだとか、闇の女をやっているものがあるというがとか、愉快な笑話ででもあるように老先輩が上機嫌で云っていた。大変丁寧な、身分のちがいをあらわした言葉で対手をしている幾人もの学生のうち、一人として、その態度に抗議をしていなかった。それは現代の日本の若い精神のおどろくべき一つの表情ではないだろうか。
アルバイトをとおして学生は勤労者化しつつある。アルバイトをとおして、学生の小市民性は危機にさらされてもいる。ここにこそ具体的な自我と自意識の発展と崩壊のテストがある。もし、そんな年より相手に議論しても大人気ないと判断したのなら、それだけの価値しかもっていない対手と話すらしいあたりまえの口のききかたをしていてよい。大学教授であり、その人々の直接か間接かの先生というところに、日本語の封建的特
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