きいて、安心のため息をつき、案ずるがものはなかったのさ、と云っているのは、決して決して日本の人口の九割五分をしめる勤労階級ではない。資本は資本と結びつく、という原則にしたがって、儲けておいては昨日までの超国家主義のうらがえしで結合する人たちの安心なのである。
今日のこの情勢の動きを眺めれば、ことしのメーデーの意義は、去年にもまし、おととしにもまして、深刻であると思う。一九一四―一九一八年の第一次世界大戦、それから二十五年たって起った第二次世界大戦を経験し、いくら戦争をやったところで、現在のままの法式では経済矛盾、社会矛盾を解決しないことを痛感しているヨーロッパ、アメリカ及び東洋の勤労階級は、ほんとに、世界歴史の上で一歩前進したやりかたを見出して、人類の平和と多数者の幸福をうちたてて行こうと努力している。世界労働組合連合の遠大な目的と献身的な努力はここに向けられている。
一九四五年に組織された国際婦人民主連盟に世界の四十四ヵ国の婦人八千百万人が結集しているのは何のためだろう。ここにこそ、死をとおし涙をとおしての女性の決意がある。二度の戦争は、世界婦人に、しん[#「しん」に傍点]から戦争挑発者たちに対する憎悪を教えた。戦争の無惨と無意義な破壊の犠牲はいつも人民に、女と子供と老人に無限にのしかかるものであることを血の涙をとおして自覚した。八千百万の彼女たちは平和と人類の幸福のための生産復興を主張している。
わたしたち日本の女性は、もっともっと自分たちの置かれている無力に憤ることを知らなければならないと思う。日本の女性がこんどの侵略行為のために払わされている犠牲の大きさについて、真剣に、自覚しなければならないと思う。私たちの欲しいのが平和と生活の安定であるならば、自分たちの欲しいものに近づいてゆくためのあらゆる手段、あらゆる智慧、あらゆる国際協力が、わたしたちの毎日の実行となって行かなければならない。
永年あまりおさえつけられて来たために日本の人の感情にはまだまだ沈着で粘りづよいはずみ[#「はずみ」に傍点]というものが不足している。はっきりと自分たちの求めているものを見きわめて、その目的を実現させるためには決してへこむことない忍耐づよさで、よいバネのように働いてゆくはずみ[#「はずみ」に傍点]が足りない。弱いあきらめや、浅はかな見越しをすて真実の世界をつなぐ花の環の一環として、平和を守る世界正義の下へ日本の勤労階級の正義をも結び合わしてゆかなければならない。これこそ、今年のメーデーに期待される重大な一つの歩み出しであると信じる。[#地付き]〔一九四八年五月〕
底本:「宮本百合子全集 第十五巻」新日本出版社
1980(昭和55)年5月20日初版発行
1986(昭和61)年3月20日第4刷発行
底本の親本:「宮本百合子全集 第十二巻」河出書房
1952(昭和27)年1月発行
初出:「働く婦人」
1948(昭和23)年5月号
入力:柴田卓治
校正:米田進
2003年6月4日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
前へ 終わり
全2ページ中2ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング