活の安定を確立させるためには、男子とともにすべての必要な行動に入って行く、と実行にうつった点にこそ、新しい意味がある。
 今日の辛酸にやつれている母たる妻たちは、こういうものごとの考えかたはあまり遠大で、理想倒れだと思うかもしれない。それよりも、目前の一枚の冬着を、とはげしく求める感情もあるであろう。しかし、私たちは、よくよく思いひそめなければならないと思う。この二月の総選挙のとき、ある種の婦人たちは、参政権よりは、やすい薯《いも》の方がありがたい、と言葉に出していった。目の前の欲しさを強調した。そのために、すべての保守的な政党の立候補者たちは、食糧だけは引きうけると公約した。婦人立候補者たちは、あれほどくりかえして女のことは女にこそわかり思いやれるのだから、婦人の辛苦を解決するためには婦人代議士を、と演説した。そして、婦人たちの投票を集め、金もちと地主の集った政党を多数党にした。世界でおどろくほど一時にどっさり婦人代議士を選び出した。
 彼女たちは、長い長い会期の間に、何を婦人のために解決しただろうか。女の苦労が集注している孤独な母たり妻たるひとの心からなる一票に、どんな現実をもって答えたであろうか。
 深い原因からひきおこされた不幸は、それが大きければ大きいだけ、その深い根源に立ち入ってとりのぞかれなければならない。今日の世界は、社会の歴史を前進させ、不幸のより少い社会をつくるための悲痛にして名誉ある前衛大部隊として、諸民族の良人を失った妻たち、母たる妻たちの幾千万の発言を期待しているのである。[#地付き]〔一九四六年十二月〕



底本:「宮本百合子全集 第十五巻」新日本出版社
   1980(昭和55)年5月20日初版発行
   1986(昭和61)年3月20日第4刷発行
底本の親本:「宮本百合子全集 第十二巻」河出書房
   1952(昭和27)年1月発行
初出:「婦人公論」
   1946(昭和21)年12月号
入力:柴田卓治
校正:米田進
2003年6月4日作成
青空文庫作成ファイル:
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