共今年は少くとも冬になるまで別にこれぞと云う事もしないで居なければならない。
 抜毛を見ながらも、変な青っぽい眼を見ながらも、徒に立って行く秋の貴さと健康の有難味を思う。
 健康で居て暇無しに仕事をして行けるのが何より幸福だと、仕事をしたくて出来ない今つくづく思う。
 わかりきった事の様だけれ共、ほんとうに心からつくづくと思うのは自分がそれをする事の出来ない様な境遇になってからである。
「抜毛」のないものには、毛の抜けない気持よさが分らない――病気を生れて一度も仕た事のないものは達者で生きて居る有難が[#「難が」に「(ママ)」の注記]分らないものだ。



底本:「宮本百合子全集 第二十九巻」新日本出版社
   1981(昭和56)年12月25日初版
   1986(昭和61)年3月20日第5刷
初出:「宮本百合子全集 第二十九巻」新日本出版社
   1981(昭和56)年12月25日初版
入力:柴田卓治
校正:土屋隆
2009年1月29日作成
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