、正月の太陽の為に南路を書き、日曜や今日のようにAが家に居、机を並べてやって居る時には、此を書いたり、小品を書いたりして居る。
仕事を、飽くまでコンスタントにやること。然し、無理をせず、真の緊張と感興の持続する限度と、雰囲気とで仕事すること、此を今、効果ある状態と信じて行って居る。
新潮から、来春、単行本が出るだろう。経済的に、自分の得るものは現在の処極僅少である。従って、貯蓄はない。
二人の分を合わせて三百円もあるだろうか。
朝、大抵八時半から九時半までに起る。朝飯後、一時頃まで書きつづけて食事にする。
それから髪を結い、日当ぼっこをし乍ら、読んだり、小さいものを書く。三四時頃Aが帰宅し、夕飯六時。一時間も、肴町、白山の方を散歩し、少し勉強し、風呂に入り眠る。
プルタークの英雄伝を読み、シーザー、アントニオ、カトウ時代のギリシア、ローマ人の生活を、非常に興味深く覚える。
プルタークは、冷静に彼等を伝記者として扱う心持で居ただろう。然し、今日の我々から見ると、彼自身も亦、彼の書いた英雄共と種々な角度に於て交渉を持った一公民としての、心情を吐露して居る。
家を引越し、もう少し周囲の高級な、部屋ももう一つ位多い処へ行きたい希望がある。然し、目下の所、いつ其が実現されるか難しい。我々の経済状態では、六七十円の家賃は、あまりうれしくない。高く出すと、出せない時もある心配が要る。
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此割合で行くと、二十八坪ばかりあることになる。
これ丈果してあるのか? 処々、実際のプロポーションと異るような感じのする処がある。
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[#図1、家の間取り]
此間から、どうかして、今の家のプランを画いて見たいと思って居た。なかなか出来ない。到頭、今、曲りなりに線を引いて見た。時が経って見たら面白いだろう。此程、単純な平面に区切りをつけるに苦心を要するのを考えると母上が、まるでプランを理解されない血統を牽いたのか。可笑しい。
底本:「宮本百合子全集 第十八巻」新日本出版社
1981(昭和56)年5月30日初版発行
1986(昭和61)年3月20日第2版第1刷発行
底本の親本:「宮本百合子全集 第十五巻」河出書房
1953(昭和28)年1月発行
初出:同上
入力:柴田卓治
校正:磐余彦
2004年2月15日作成
青空文庫作成ファイル:
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