或いはその創作が多くの場合、彼女は女であるという目安の上に置かれて批判され、価値づけられているか、この点に関しては、例えば「性」の問題を取扱うとして、つぎの如きもどかしさがその創作を裏切る。即ち「性の問題」を取扱う場合も、男はそれを彼の生活の一部として虚心に口にし、芸術化し得るのに対し、女性はそれをより以上に敏覚する素質を与えられていながら、彼女がその原始時代から伝統的に培われてきた道徳性は、この問題を直ぐに善悪の批判の上に結び付けたがります。一面男性よりも性的の徹底性を持ちながら、芸術家になり切れない道徳性の為めに、フッ切れない女性の力のはがゆさが痛切に感ぜられます。
 これは僅かにその一二の例に過ぎないが、これらの点からも女性はもっともっと力強く自己を開拓する必要があると思います。

 私は過去の自分の創作やその態度に非常な飽き足りなさを感じたことから、今度の長篇に対してはこれまでとは全く異った気持で向っています。私は過去の生活が割合に順調であった為めに、それから享容《うけい》れた或る純真さはあったかも知れないが、他面に於て前に述べた伝統から享容れた欠点のある事も否めない事実である
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