いうことが、研究者の間でよく話題にされる。小説「雪の日」の題材となる雪の日の日記があって、それを見ると半井桃水は樋口一葉と同様に貧乏であったことがよくわかる。一葉は当時上流人を集めていた中島歌子の塾に住みこみの弟子のようにしていたが、わがままな育ちの若い貴婦人たちのなかで彼女がどんなに才能をねたまれ、つらいめを見ていたかということは、こまかい插話にもうかがわれる。貧乏というものは口惜しいものだということを一葉は日記の中で書いている。半井桃水が借金に苦しめられて居どころをくらまして、小さい部屋にかくれ住んでいる。そこへ一葉は原稿を読んでもらいにもって行く。貧乏な生活が一葉の現実である以上、それをむき出しにしている半井桃水を自分の仲間、一番近い男だと感じたことがうなずける。生活の現実の類似。貧しい仲間だという気持。それが強い動機となって一葉は桃水に親しみを覚えたにちがいない。ところが桃水との交際を中島歌子から叱られる。一葉は桃水との恋などとは思いもよらないことだといって、桃水とのつきあいは絶ってしまった。桃水とつきあいのあった間、樋口一葉に恋の歌は一つもなかった。実際に桃水とのつきあいをや
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