まごころというものを主張しているところだと思う。「末つむ花」のような当時の文学のしきたりから見れば破格の面白さも、その点からこそ描いた源氏物語には女のはかなさというものへの抵抗が現われている。紫式部は決して、優にやさし、というふぜいの中に陶酔していなかった。
 藤原時代の栄華の土台をなした荘園制度――不在地主の経済均衡が崩れて、領地の直接の支配者をしていた地頭とか荘園の主とかいうものが土地争いを始めた。その争いに今ならば暴力団のような形でやとわれた武士が土地の豪族の勢力と結んで擡頭して来て不在地主であった公卿を支配的地位から追い、武家時代があらわれた。やがて戦国時代に入る。ヨーロッパにルネッサンスの花が開きはじめた時代から日本が武家時代に入ったということを、私たちは忘れてはならないと思う。この事実は明治維新に影響し、今日の日本の民主化の問題に重大な関係をもっているのである。
 武家時代に入ってからの婦人の生活というものは実にヘレネ以上の惨憺たるものであった。女性は美しければ美しいほど人質として悲惨だった。人質としてとられ、又媾和的なおくりものとして結婚させられる。戦国時代の婦人達の愛情
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