、その土地の所有者に断れば殆ど自由ですから、毎年変った土地へ、思うさまに行くことが出来るわけです。
 日本ではまさか女ばかりでそんなことも出来ますまいが、罐詰にバタその他必要な程度のものの入った小さなバスケット一つに、折畳みの簡単なベッドに毛布これだけで自分が望む土地への避暑ができるのですから頗る手軽で愉快な方法です。海辺はどうも日本も同じで余り風儀がよくないため、やはり山へ行く人の方が多いようです。都会の夏を避けて溪流の音を聞きながら全く自然に親んで、簡単な「必要《ネセサリ》の生活《ライフ》」をおくるということは考えただけでも愉快ではありませんか。
 金に飽かせて随分馬鹿な避暑旅行をするアメリカの中流階級以上の人達の中にもこの全く自然なキャムプ生活を楽む人が年々殖えると聞きます、あちらでは避暑としてのキャムプ生活は男女学生に限らずあらゆる階級を通じて全く家庭的の避暑法となっていますが、キャムプ生活に炊事が楽しい仕事《ウァーク》の一つであるだけに、何等かの方法で日本にも行われるなら、すべての階級を通じて女を主として理想的の避暑法ではないかと存じます。
[#地付き]〔一九二二年七月〕


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