苦心をしたという経験がないので御座います。
 一番嬉しかったというのは、矢張り、初めて自分の書いたものが活字になった時で作の善い悪いは別として、理由のない嬉しさを感じました。それはまだお茶の水高等女学校に在学中、何の見当もなく、一生懸命に書きました処女作「貧しき人々の群」を坪内逍遙博士に見ていただきました処、意外にも非常なお推奨を受けまして博士のお世話で中央公論に発表されたので、幸い有難い評判をいただきました。お茶の水の卒業後暫く目白の女子大学に学び、先年父の外遊に随って渡米、コロムビア大学に留まって社会学と英文学研究中、病気に罹り中途で退きましたが、その時、荒木と結婚することになり、大正九年に帰朝いたしまして、その後は家事のひまひまに筆にいそしんで居ります。
[#地付き]〔一九二四年一月〕



底本:「宮本百合子全集 第十七巻」新日本出版社
   1981(昭和56)年3月20日初版発行
   1986(昭和61)年3月20日第4刷発行
初出:「婦人倶楽部」
   1924(大正13)年1月号
入力:柴田卓治
校正:磐余彦
2003年9月15日作成
青空文庫作成ファイル:
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