だりした大きな家です。横手に板塀がめぐらされていて、通用門はそこにある。
ずっと入って行くと、玄関のところで赤いネクタイをつけた可愛いピオニェールの少女と少年が声をそろえて嬉しそうに、
「あ、来た、来た!」
そして、こっちへかけ出してきました。
「こんにちは!」
「こんにちは! あなたがたでしょう? 日本からきた作家たちというのは――」
「電話で知っていたんです」
「さアこっちで外套ぬいで下さい」
われわれのまわりは忽ち珍らしそうにとりまいた十から十五六までの少年少女でいっぱいです。なかの一人が、
「じゃ私アンナ・ドミトリエーヴナにそう云ってくるわ」
奥の方へかけて行きます。
玄関から左手の奥の方は女先生、アンナ・ドミトリエーヴナの住居になっているらしい様子です。つき当りの窓に水栽培のヒヤシンスの瓶などがかざってある。
子供たちから見ると丁度お祖母さんぐらいの年恰好の女先生が、きれいな白髪で、しかし元気そうな顔つきで出て来ました。
「ようこそ! 子供たちはさっきから待っていましたよ。どうしておそかったんです?」
「モスクワは大きい市ですから、三年いたってまだ迷子になったんです」
ドッと子供たちは笑う。お祖母さん先生も笑いながら、
「おや、これから私どものところでは御飯ですから一緒にたべて下さい。それから……」
ぐるりと、かたまっているみんなを見廻して、
「今日は誰が文化委員です?」
と子供たちに訊きました。
「僕です」
「私も……」
「エレーナもそうです」
「では三人で、このお客さんがたによくいろいろ説明しておあげなさい。またあとで御質問がありましたら私がお答えしますから……じゃ、ごゆっくり、どうぞ」
ずいぶん日本のそういうところと様子が違うでしょう?
ソヴェト同盟では小学校からズッと生徒に自分たちの力で級の仕事をやってゆくように育てられています。
級長なんかというスマした優等生が、先生の小さい出店みたいなことをするのではない。級全体が選挙して、文化委員、衛生委員、学務委員というものを何人かずつきめる。
その委員たちが、みんなといろいろ相談し、学校の湯呑場、手洗場が清潔かどうかということから、先学期は、どの課目が級全体としておくれたから、今学期はそれをどうとりかえしてゆくかということまで、先生と相談してやって行く。
「子供の家」ももちろんいろ
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