ずき心を動かされ、すこし急いでのぼって見たら、やっぱり! ここにも同じことが起っている。それだのに、何処をさがしたって、廊下じゅう人っ子一人姿は見えず、自分の部屋のドアの前に立ってゆっくり鍵でそこをあけて入ったら、夏のほてりがいくらかこもりながらも涼しい風が暗い室へ入って来る。ヴェランダの彼方の祭の夜空にエッフェル塔のシトロエンの広告が、この高さでまた新しく甦って来る音楽やどよめきの上に、6シリンダア6シリンダアと機械的な明滅をつづけていた。
[#地付き]〔一九三九年九月〕



底本:「宮本百合子全集 第十七巻」新日本出版社
   1981(昭和56)年3月20日初版発行
   1986(昭和61)年3月20日第4刷発行
底本の親本:「宮本百合子全集 第十五巻」河出書房
   1953(昭和28)年1月発行
初出:「モダン日本」
   1939(昭和14)年9月号
入力:柴田卓治
校正:磐余彦
2003年9月15日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたった
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