十四日祭の夜
宮本百合子
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)十四日祭《カトルーズ》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#地付き]〔一九三九年九月〕
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七月も一日二日で十日になる。今年も暑気はきびしいように思われる。年々のいろいろな七月、いろいろなあつさを思いかえすうち、不図明るい一つの絵提灯のような色合いでパリの七月十四日の夜が記憶に甦って来た。
一七八九年の七月十四日、フランスの人々は現代に到る自分たちの社会を持つようになった。その国民的な祝祭が十四日祭《カトルーズ》に毎年行われる。
映画の「巴里の屋根の下」に撮されているようなごろた石を鋪道にしたような裏通りまで、カフェーの前あたりはもとより往来のあっちからこっち側へと一列ながら花電球も吊るされ、青い葉を飾った音楽師の台が一つの通りに一つはつくられて、街という街は踊る男女の群集で溢れる。
外国人のためにもこの祭りの日と夜とを一きわ華やかにしつらえている贅沢な並木道通りからはずれ、暗いガードそばという場末街の祭の光景は、その片かげに大パリの現実的な濃い闇を添えて
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