典的な貧の悲しき漫画材料だ。ブルジョア社会制度の下のプロレタリアート数千万の女性にとって、母性は彼女らにより生き易き権利を与えるどころか、明白に日々の労苦の門だ。生存そのものをさえおびやかしている。
 ターニャを見ろ!
 日本女は自分の中に眠っている母性がそのために目覚まされ、同じよろこびで熱くうごくのをさえ感じた。彼女の全身をみたしている深い安心、母となろうとする曇りなき期待はどうだ! ターニャの輝きは、とりもなおさずソヴェト社会がどのようにプロレタリアートの母性を護っているかということの照りかえしでなくて何であろうか! と。
 労働婦人が姙娠して五ヵ月以上になっている時、労働法によって工場、事務所は彼女を失業させることを許されない。生後十ヵ月以内の嬰児をもっている場合も。(まして、四ヵ月の休暇期間は云うをまたない)
 相当の数、労働婦人のいる工場、製作所で託児所《ヤースリ》のないところはない。託児所は朝八時から五時まで。五時から十二時まで。或るところは無料で、或るところは親の収入に準じた実費で七歳までの子供を保護し、食事、沐浴、初等の社会的訓練を与えてくれるのである。乳児のある母に
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