による無我夢中、一方は醜劣な獣心の跳梁にまかせての性的交渉が結ばれたとしたら、そして、その百鬼夜行の雰囲気が伝染したとしたら、言葉で云えない惨めさです。とがめ、責める先に暗澹とした心持になります。
 こう云う、本当のあやまちを少なくするには、どう心掛けたらいいのでしょう。
 近頃頻りにいわれる性教育も、補助的知識の一つとしては無いに勝るでしょう。けれども、人間として自分達が出来るだけ崇高に、豊富に、自由な正義、美を持って生きたいという熱意は、生理衛生の知識からだけは湧きません。総ての知識、学問的知識は、根本の真心があって始めて足場となり助け木となって私共の生活を富せます。
 両性間の純な徳義、敏感な礼節、美しい共力はどうして得られるか。今日の生活、社会の習慣はまだまだ此等の獲得を困難なものにしています。男性も女性も、第一というところ、最も理想的というところを絶えず目ざしていて、決して雑作なく其処に着き過たということはない時代です。両性の交渉を考えるには先ず人間はどういう生き方をするのが本当かという大きな疑問が来ます。人間として自分は何を目ざして行く気なのだろうか。私はここに根があると思
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