てゆこうとする熱意を、わたしたちでない誰がその体の内に熱く感じているというのだろう。
次第にあきらかにされてくる日本の人民的生活とその文化の運命についての真面目な関心は、多くの人々の精神を鼓舞し、せまい自我の環のそとへふみ出させはじめた。自我の確立の意欲とその表現が、確立するべき自我の社会的歴史的な実体のありようをぬきにして語られつづけているうちに、やがてその言葉さえもいつしかさかさまの内容に逆用されている屈辱にたええなくなったのは、理性の自然である。
一九四八年の夏に、前進的な日本の意欲が平和と生活と文化のまもりのために意味ふかい一歩をふみだしつつあるとき、崩壊と虚無の選手であった作家太宰治がその人らしいやりかたで生涯をとじたことは、決して単なる偶然ではなかった。[#地付き]〔一九四八年八月〕
底本:「宮本百合子全集 第十三巻」新日本出版社
1979(昭和54)年11月20日初版発行
1986(昭和61)年3月20日第5刷発行
底本の親本:「宮本百合子全集 第十一巻」河出書房
1952(昭和27)年5月発行
初出:「新日本文学」
1948(昭和23)年8月号
入力:柴田卓治
校正:米田進
2003年4月23日作成
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