一くさりに、眼の美しい表情は程よい読書と頭脳の集中された活動によってもたらされる、ということが云われた時代があった。今ではこれも長閑《のどか》な昔がたりのようにきこえる。若い娘の知力は、ただあれもこれも知っているという皮相のところから、もっと沈潜した生活力と一つものと成って、生きる自信のよりどころとなることを求められている時代だと思う。真に人間らしい情感のゆたかさや装飾のない質素な生活のうちに溢れる気品を保って生きることは、たやすいことではない。生活から逃避することで、それらは得られない時代だと思う。雄々しく現実の複雑さいっぱいを、自分としての生活の建て前で判断し、整理し、働きかける筋をつかみ、そこから湧く生活の弾力ある艶が、若い女の明日の新しい美ともなるのだろう。
今日の若い娘は女の歴史的な成長の意味からも当面しているたくさんの問題から自分だけは身を躱《かわ》す目先の利口さを倫理とすべきではないと思う。[#地付き]〔一九四〇年八月〕
底本:「宮本百合子全集 第十四巻」新日本出版社
1979(昭和54)年7月20日初版発行
1986(昭和61)年3月20日第5刷発行
底本の親本:「宮本百合子全集 第九巻」河出書房
1952(昭和27)年8月発行
初出:「婦人公論」
1940(昭和15)年8月号
入力:柴田卓治
校正:米田進
2003年5月26日作成
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