うちにあれば、才能というものは、ほんとに皆の宝で、自分だけの立身のタネでないことがわかり、そのことで芸術も高められる条件が加わります。
私ども人間の感情表現が、そういう風にして現実に生活の条件によって変るということをはっきり理解すれば、今日ソヴェト生活についてのいろいろなお話は、私たちが現に生きている今日の日本の社会をどう変えた方がいいか、どう変える可能性があるかについても、実にどっさりの教えるところがあるわけです。
新聞を見ると、暴力団狩りが始まっております。まずこの食糧の問題、労働賃金問題、インフレ問題は、一朝一夕に、てっとりばやい効果が示せないから、出来ることから早くやって、誰の目にも悪いとしか見えないところに掣肘を加えておくのは、賢明でしょう。闇の大親分が捕まった、料理店がしめられた、それらはたしかに社会不安の幾分をへらします。しかし、新聞では一千万人の失業が見こされていて、その見出しには、失業保険による生活安定の見透し確立と書いてあるとき、私たちの心は果して安定を感じるでしょうか。闇の親分といい、犯罪的行為といい、それは非道な戦争の強行と、その後の社会生活の破綻が、根本の原因です。人口の大部分を占めている勤労者の生活の不安が解決されないまま、その結果にあらわれた誰の目にも悪いものを掃除したとしても、根本矛盾がそのままでは、また、たちまち悲劇は反復です。きょうの往来を歩くと、到るところ「スリが狙ってる!」と立て札があります。あれをみて戦争中、「スパイ御用心!」と到るところに貼られていたポスターを思い出さない人があるでしょうか。そして、あの悲しいポスターと、この歎かわしいポスターとが、本質において、一つものだということを感じない人があるでしょうか。それを一つとして感じる能力こそ、社会的な文化性にほかなりません。
ソヴェトの話が日本の話になってしまいましたが、ソヴェト社会について、何故日本の私たちが語る価値があるかといえば、ソヴェトは自分たちの意思で、自分達の幸福を守り得るような社会を作って来たからです。自分たちの目の前にあることをどう見るか、そして、どういう風に発展させて行くか、われわれの未来を人類的な形で昂めて、新しい民主的社会に近づけて行く可能性の問題が、ソヴェト社会の一歩進んだ民主主義の方法と経験のうちに示されているからです。私たちがより明るく、
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