して其から下げて貰うんですよ」
 私には写真のあらましも想像のつくことであったし、そういう特殊な役目のひとにはそれまで厄介になっていず、そういうことまでして、文章の方により活々と描かれている風景の小写真を貰うのが気億劫であった。友達のこまかい親切の一部がそうやって途中でつかえたことを感じ私は暫く黙って布団のつみ重りの前に立っていたが、ふと或ることを思いつき、家族の写真なんかも同じですかしらと訊いた。ええ。写真は皆手続が一つです。私はありがとうと云って、再び板壁につくりつけの小さい机の前に向った。数日後、自分の子供の写真を下げて貰いたいと哀願している女の微かな声に私は緊張した注意と鋭くされた感情とをもって耳を傾けるのであった。
[#地付き]〔一九三六年六月〕



底本:「宮本百合子全集 第十七巻」新日本出版社
   1981(昭和56)年3月20日初版発行
   1986(昭和61)年3月20日第4刷発行
初出:「輝ク」
   1936(昭和11)年6月17日号
入力:柴田卓治
校正:磐余彦
2003年9月15日作成
青空文庫作成ファイル:
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