盛に開閉する。すぐ隣の扉を誰かがノックした。
「フロラ、御飯は?」
中では、着換え最中らしく、こもった声がきれぎれに答えた。
「あ、今。――私お客なのよ今夜――」
伸子は、部屋に鍵をかけて、昇降機《エレヴェーター》のところへ行った。もう四五人待っていた。どうかして昇降機がさっきから上って来ないらしい。伸子が名を知らない金髪の娘が、癇癪を起し、
「どうしたのよ? 一体」
と頻りに柱の釦《ボタン》を押しつけた。
「私、気が遠くなっちゃうわ、おなかがぺこぺこで……」
「おおお、可愛そうに!」
仲間の一人が、真面目な顰面をし、緑色のジャムパアの衣嚢《ポケット》から何か出してやった。
「さ、これでもしゃぶっておとなになさい、美味しいことよ」
誰もがおなかをすかしているので、思わず本気で抓《つま》み出された物を見た。が、一時に足踏をして笑い出した。
「こりゃあ素敵! さ、おしゃぶりなさい。だけど少し塩がききすぎてるに違いないわね、どうも――ハッハッハッ」
手あかだらけの丸い消ゴムをやったり、とったり、騒ぎのところへ、すーっと昇降機が来た。来たが、満員で、隅っこにやっとハンドルを動している
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