お戦争の根絶されるべきものであることは主張されなければならず、そのための人類の努力は継続されなければならないものだ、という事実について。
 こんにちの特徴は、そういう考えかたをしているのが決してフランスの女学生ばかりでなく、ましてやわたし一人のことではないという事実である。過去五年の間、日本の新しいヒューマニティーの成長のために何かの希望と善意を示して来たすべての人々、なかでも文学者は、現代の世紀の良心の前にすでに正直な自身というものを露出させて来たのだから、たとえ六月二十五日以後、どこにどのような事態がひきおこされようと、もう、かつての時のように、先ず自身の精神を韜晦《とうかい》して屈従の理論をくみたてるという芸当に身をかわすことは出来ない。
 日本の明日への精神と知性にとって、この事情はいいことだと思う。まっすぐに、自身の善意に耐える意志を発揮してゆくこと。そのことを通じて人及び文学者としての自身の価値に歴史の上でのよりどころを再確認すること。現代文学はアジアにおける日本の住民がおかれている立場の必然から、何かの道を通じてこの過程を通らないわけには行かない。ひとり、ひとりの文学者が
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