い出して下さい。僕は真個《ほんと》に出来る丈の事をして、助けて上げたいと思います。けれども、まだ仕事は出来ないので、此頃夕方から三時間程ずつ夕刊を売っては、溜ったお金を寄附しているのです。非常に少しです、全く! けれども、其は私の出来る丈の事をして出来た事なのですから、恥しいとは思いません。どうぞ、少しでも、皆さんが、此は自分の出来る丈だとお思いに成る丈でよろしいから、僕達の仕事、私共、国中の者の仕事を助けて下さい」
少年は、手に持っていた印刷物に鉛筆を持ち添えながら、皆の顔を見廻しました。その、横罫の厚い紙の面には、きっと寄附金の受取りに必要な、金額や会の主だった人の名や目的が刷って有るのでしょう。
「君は、なかなか立派に話しますね、大きく成ったら議員に成る積りですか、どれ」
集っていた人の中で、丁度其少年のお祖父さん位の年頃の紳士が、ポケットに手を入れて幾何《いくら》かのお金を少年に渡しました。
私には、今日でもまだ其の少年の其那に高くはない、然し立派に明瞭な声や熱心な面差しを思い出す事が出来ます。何故その少年は其那にも私の心を動したのでしょう、私は、彼の一生懸命さと真面目さ
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