争でひとりも死ななかったお家はないと思います。焼けなかったという方はこのなかに何人いらっしゃいますか。私達が今日まで払った犠牲はずいぶん大きい。そこから私達が真面目に社会をよくしようとしている時に、ひょッと一枚の紙を読めば議会を解散させる権力のあるものがあるということ、しかも憲法草案はすべての人は法律の下において身分、門地その他によらず平等であると申しておりましょう。そうすれば人間のなかにそのような権力をもって、たった一つの言葉で戦争をし何十万の人を殺し何千万の涙を流し、そして何十万の家を焼いた。そういう人に戦争をさせる権利があるということが間違ったということは、あの人は、という規定のなかでいっているわけです。私達の心のなかには昔からいろいろの習慣がたくさんございますから、理窟では正しいと思っても、気持がまだ、感情がまだということがたくさんございます。それは人の気持の自然ですから、理窟で説き伏せるとか気持がそぐわないのにそれは道理だからといって押付けられたら間違っても仕方がないけれども、しかしわれわれの生活はここで間違っても結構だというように過去においても今においても楽だったとは思われ
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