も、昔のエジプト人たちの知らなかった生理の知識によって人間の眼の構造の精緻なことを感嘆する私たちのよろこばしい驚きはますます深くゆたかにされている。そして、その眼が精妙な仕組みのなかに私たちの愛するものの姿を映したとき、あるいは美しいものを映したとき、私たちの全心に流れわたる愉悦の感覚は、眼そのものにさえつや[#「つや」に傍点]と輝きとを増す肉体と精神の溌剌可憐な互のいきさつを、ひしひしと自覚しているのである。
物質の世界と心の世界とは、人間の文明の進むにつれて、だんだん野蛮な二元的解決から解放され、そのものの現実的でまた自然な動的な相互関係の統一のうえに理解されて来ている。
幸福というような、人間の社会生活の環境から生まれた一つの観念は、そのような人間精神の活動の結果もたらされたひろまりにつれて、はたしてどのくらい進歩して来ているだろうか。
天国地獄、地獄極楽という観念の絵草紙が幸福の模様としてきめられていた時代、人々はぴんからきりまでのいとわしく苦しいものを日々の現実から抽象して地獄へあてはめ、ぴんからきりまでの望ましいものをあつめて天国の構造とした。そこへ幸福の観念を固定さ
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