なに、しょげていらっしゃるのです」と尋ねた。そこで、巨人の難題のために困っていることを申しますと、その女の人は「女が何を求めているかということは、ちょっと男の人にはわからないでしょう。しかし、あなたは大変正直だから私が教えてあげましょう。女がこの世の中で一番求めているのは独立です」と言った。期限が来て、巨人にこの答えを申しますと、巨人は非常に驚いて「人間の男にそういうことがわかろう筈がない。これは一番の根本問題で、人間の男に、女が求めているのが独立であるということがわかるはずがない。きっと誰かに教わっただろう」と言いました。騎士は正直な人間でございますから、赤い着物を着た女の人のことを申しました。これはこの巨人の妹であったのです。
この話は、今日私たちが聞きましても面白いもので、これは十三世紀頃、いまから八百年も前に出来た話であります。
賢明な男の人は、女が一番求めているのは、独立であって、しかも女自身では、表現することが出来ない、自分がいま求めているものは何であるか、ということを、自分の問題として、はっきり世の中に訴える力、実行して解決して行く力をもっていない、その気風を非常によく理解していたということがわかります。
昔の男の人たちにも、洞察力の鋭い人があったということが、この物語でよくわかります。と同時に、今日、言論の自由とか、男女平等とか申しておりますが、日本のどこででも、やっぱりまだ巨人がいったように、女が本当に求めているのは、独立だ、ということを理解しない人が沢山あるように見受けます。
最近の芝居で「人形の家」をやっておりますが、あの主人公のノラは、いままで夫に玩具にされていたということが不満であり、どうかして、玩具の生活から逃れたいといって、家出をする。あのノラの問題に残されているものは家を出てから、どんな生活を、ノラは樹てていったかということです。
ところで、今日、あのノラの芝居を御覧になる方は、自分たちの問題として見ないで、ある時代にあった一つの例だという風に、女が解決して行きたい一つの与えられた問題だというように、歴史を振返えるものとして、御覧になったとおもうのです。
ですから、ノラの芝居が――せんだって私も見にまいったのですが――上演されました意味は、未来に向って、課題を与えるというより、われわれが、今日いろいろの現実の問題を解決して
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