たり、煮たりして食べることを知ったのであります。
人間がまず幸福を求めはじめたとき、自然と闘って、自分たちの生活を、より棲みよく工夫してきたということ。その次の段階には、生活の様式が変化するにしたがって、いままでの権力の存在が邪魔なものとなり、その権力との闘いがさけがたく起って来ている、ということがわかるのであります。
また、ギリシャ神話の中にこういう話があります。「希望の箱」これはきっとみなさまも御存知だろうと思いますが、パンドーラという人間の女性が、ジュースの神につくられて、神の世界より巨人ヴァルカンの妻として人間の世界におくられます。その時ジュースは一つの箱をパンドーラに与えて言います。「お前は人間界に行くのだけれど、この箱の中には、いろいろないいことが詰っている。もしうっかり開けると大変だから、どんなことがあっても決して開けてはいけない。」と申しました。けれどパンドーラは女でございますから、やはり好奇心が強かった。一体箱の中に何がはいっているのかしらと思い、とうとう、その箱を開けてしまった。そうしたら中から、いろいろなよろこびとか、笑いとか、それから遊びなどという人間のもっている楽しいものが、どんどん逃げてしまったので、パンドーラはびっくりして蓋を閉めてしまった。そしたら最後に箱の中に残ったのが、希望だったのでした。このようにパンドーラも希望だけは失わなかった。そして又、人間もあらゆるものを失っても、最後まで希望だけは失わないでのこしているという話です。それから、人間は、いろいろな不幸な目にあうようになったが、その源を考えて行くとパンドーラが箱の蓋を開けたとき、同時にたくさんの病気とか、たくさんの悲しみとかいうものが、箱から溢れ出たからだということが、パンドーラの話に云われているのです。
それから、ずうっと社会が進んでまいりましてから、聖書の書かれた時代、あの時代になりますと、アダムとイヴの話があります。
これによりますと、アダムとイヴの二人の人間が作られたことになっております。そして、この二人の人間は禁断のこのみを食べたため、神の怒りによって楽園から追払われました。
それから人間は、何処かに楽園があるわけだと考えるようになりました。そこでは、人間はみんな平等であり、花は爛漫と咲きほこり、人情はあたたかくて生活しよく、大変美しく楽しい、そこがエデン
前へ
次へ
全10ページ中2ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング