多さも大抵は知っていて、災難というと立ちどころに、ああと思うめいめいの心当り、危惧さえ日常生活の裡には存在しているという我々の現実を語っている。前線に愛する誰彼を出しているような人にとって、厄災と云う字は笑いすてきれないかげを投げるだろう。
幸運の手紙は、従って人々がともかく幸福らしいものをたっぷりもって暮している世情の中では、効力を余り発揮しない。幸福や幸運というものがいかにもぼんやり遠くにあって、今日の現実とは反対のものとして心に描かれているような社会の条件のなかでこそ、幸運の手紙はその循環を全うし得るのではなかろうか。
地球を七巻き巻くとかいう云いかたも執念めいた響きを添える。七巻きとか七巻き半とかいう表現は、仏教の七生までも云々という言葉とともに、あることがらを自分の目前から追い払ってもまだそれはおしまいになったわけではないぞよ、という脅嚇を含んでいる。自分たちの棲んでいる地球を天界の外から見た人はないのだから、そういう地球を七巻きまくと云えば、気味悪い脈々とした連続をも感じさせよう。
今度は幸運の手紙を貰った人が警察に届けたということもあったようである。そんな手紙を貰っ
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