にかかれ、いくらか内面的な記述が加わっているが。
山口一太郎氏の二・二六真相が、どうしてこういう風な形で同時にいくところへもあらわれたのだろう。中島健蔵氏が「世界への反逆」でふれているように、編輯者たちのルーズさ、作家のうかつさというわけなのだろうか。
こんにち日本は、一つの危険な不幸な状態におかれている。花山信勝の「平和の発見」が、そこに一つも平和への誠意がないことを批判されつつ特に九州や東北の農村でひろくよまれているし、ソ同盟からの復員者たちは、船から上陸する前に、まず、次の戦争への挑発にあっている。人民生活の収奪のひどさに苦しむ一般の感情に乗じて、きょうの日本のファシストは左からぐるっと右へまわった愛国主義の鼓舞、民族主義、内閣打倒を思っている。
丹羽文雄氏は、作家として戦争に反対する立場を社会に向って明らかにした。したがって作家として本質的な作品に関しても、その社会的立場と一致した関心がはらわれるのが自然であると思う。一切私が口を插《はさ》まないという態度が、作家の客観性を保証することでないのは自明である。丹羽氏は現実に対して作家の人間的自主的な評価の責任を放棄した過去の受動的リアリズムをすてて、「生きかたの問題」としての文学創作に歩み出ているのであるから、文学作品と、こんにち日本の人民にとって最も悲劇的な軍国主義の復活、戦争挑発の影響の関係について、真剣な考慮を払うべきである。作家は自身の文学の現実によってこそ、ファシズムと戦争挑発に反対する仕事をすすめなければならない。[#地付き]〔一九四九年八月〕
底本:「宮本百合子全集 第十三巻」新日本出版社
1979(昭和54)年11月20日初版発行
1986(昭和61)年3月20日第5刷発行
底本の親本:「宮本百合子全集 第十一巻」河出書房
1952(昭和27)年5月発行
初出:「文学新聞」
1949(昭和24)年8月15日号
入力:柴田卓治
校正:米田進
2003年4月23日作成
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