いうような事柄は大きい問題だからそれが働く人に関係のある事なら男の組合員がなんとか決議してくれるだろうし、政府もまさか日本のみんながドレイになる様な事は出来まいと考えているとすれば、あんまり、あま過ぎます。吉田首相は去年の秋頃、読売新聞の馬場社長と対談の中で、日本の将来について、先ず「外国人の安住の地に」したいと云う意味の事を話していました。(国内では何万の人々を首切りながら)私はその一言がどうしても忘れられません。日本は日本の人民の祖国であり、皆がそこで真面目に働いて、愛する土地での生活を美しく、人間らしくしたいと願っているのです。
 講和の出た去年の十一月下旬、新聞が集めたアンケートでは面白い事に、警視総監のような政府の役人と株屋と徳川夢声等が単独講和でも早いほうがよいという回答をしています。そして石川達三、石坂洋次郎、丹羽文雄、その他の作家や学者のある人は、全面講和でなければいけないと主張しています。
 実際に世界の平和と日本の自立の為には、日本管理に関係のあるソヴェト同盟、中華人民共和国、その他オーストラリヤ、イギリスその他の国々の同意がなければなりません。
 私達はうっかりしていて、思いもかけない事になるような講和は御免です。
 今年の前半は去年から引続き三鷹事件の公判が続くでしょう。この公判には組合の人々も都合して一人でも多く傍聴する必要があります。検事が不当な取調べをしたと云う事は公判第一日から五回迄の陳述の中に、ハッキリ述べられています。林弁護人の陳述の中では検事団が三鷹事件の証人を検事側に有利に利用する為には偽証罪をふりかざし、証人呼び出しの不意打ちなどの技術を指導している事実が語られています。権力が私達すべての人民に共通な人権を踏みにじってゆく方法はこの様に計画的であり、普通の心では信じにくい程です。
 講和と云う様な我々人民の運命を決定する重大な場合、私達はまさかと云う言葉を放逐しなければいけません。
 世界の民主的な勢力が、私達日本の健気《けなげ》に働く女性の一人一人を支援している力を確信してアジアの幸福と日本の幸福が一つものとして解決されてゆく様に努力致しましょう。
 私は去年の暮から大変体を悪くして、外出や講演が出来なくなったのでいろいろな組合からの御依頼も果せずにおります。組合の中には随分文学好きな方もあって、全逓の作品集『檻の中』が出
前へ 次へ
全3ページ中2ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング