いう旧い方法しかもちあわさないというわけでしょうか。
 しかし、この反面には面白いことが一つあります。それは、ためしに、そういうしごき姿の娘さんの一人に向ってこうきいたら、その返事はどうでしょう。
 もしもしお嬢さん、大変古風なおこのみですが、あなたの御盛装が意味しているとおり、民法が昔にかえって、婦人の地位を男子に隷属したものに戻すとしたら、どうお思いでしょうか、と。きかれた娘さんは、きっとしごき[#「しごき」に傍点]の房をはげしくゆるがして、そんなこと、ひどいわ、とおこるでしょう。こんななり[#「なり」に傍点]と、そういう真面目な問題とは別です。それを、わざと一緒にしてもち出すなんて、意地わるね、と。
 古いものはあちこちにのこっているにしても、日本の女性は、もう昔どおりの古さではないのです。
 この面白い矛盾のなかに、ことしの、わたしたちのおめでとう、の種《たね》がひそんでいると思います。たしかに、どこからか仕合せがもたらされて来るのを待っているという意味での、のぞんでいるという形での希望は、去年、おととしで、きれいにうちくだかれました。
 幸福を待っていても、それがもたらされないとわかったとき、わたしたちのすることは、たった一つしかのこっておりません。それは、待っていても当のない幸福なんか待たずに、どんな小さいものでも、自分たちでつくり出してゆけるよりよいもの[#「よりよいもの」に傍点]を確実に実現してゆこうとする決心です。

 ことしこそ、婦人の生活のあらゆる場面で、この決心が新しく自覚される年だと思いますが、みなさまの御気もちはどんなでしょう。もう、これ以上ひどくなっては、やりきれない。実際だれでも、そこまで来ました。
 たとえば、どこのお母さんでも、お子さんの学校の問題には頭をなやましておいでです。六・三制になって、校舎がない、教科書が足りない、という声は三年越しです。小学校の課目に社会科という科が出来ました。社会科の時間に、子供たちの輿論調査が行われました。学校生活で一番希望されていることは、学用品・運動靴の配給や、給食をもっとほしい、ということです、子供達が住んでいる町にのぞんでいる第一のことは、遊ぶところをつくってほしい、というねがいです。物をもっとやすくしてほしいという答もあります。家庭生活では、先ず米を沢山配給してもらいたい、が筆頭で、燃料・調味料をほしい。物価が安くなってほしい。読みものがほしい。家を建ててほしい。家の中を楽しいところにしたい。そして、母がいればよい、という希望が答えられてあるのをみたとき、私たちの心は、おのずからその母という字を父という字におきかえます。父がいればよい、と思っている子と母は、いまの日本に余り多勢です。お母さんがたは、子供たちの希望がこんなにそっくりそのまま、母であり主婦である御自分たちの希望と一致していることに、おどろきになりはしないでしょうか。

 子供たちの課目のなかに社会科が出来たということは、子供と先生とだけのことではありません。学校を、町を、家庭を、すこしでも住みよいところにするためには、お母さんがたの力量が待たれています。子供たちと母親たちとが協力して、住んでいる町にたった一つ、子供の遊び場がこしらえられないでしょうか。家庭をたのしいところとしたいという子供の希望について、親たちが互の暮しぶりをうちあけて研究しあうことは無意味でしょうか。
 読みものがほしい子供たちのために、このごろポツポツ出来はじめた婦人と子供の図書館の利用法を考えてゆくのは無駄でしょうか。
 もとの日本では、子供の教育に責任をもつのは、父兄であるとされていました。けれども、日本の教育方針が改められて、軍国主義の教育をすて、国民の一人一人が社会を運営してゆく能力をもつために民主的な教育が要求されてから、母も父と並んで、子供の未来に重大な関係をもつものであることがはっきりして来ました。この頃、小学校に出来た「両親と先生との協議会」はそれです。日本の一人一人のお母さんは選挙権や被選挙権をもっているばかりでなく、ほんとに母として、子供と一緒にこの社会をよくしてゆく権利と責任をみとめられたわけです。

 今日の日本の主婦はうち[#「うち」に傍点]のことで精いっぱい、というのは事実です。だからこそ、ことしは、民主的に托児所をこしらえようとする動きもおこっても来ているわけです。インフレーションのせつなさはどこでも主婦の胸にこたえて、主婦も何かで家計の増収をはかりたい希望があります。子供をかかえた未亡人も、三年目のことしは、もう行きつくところまで来ました。子供があるからこそ、働く必要は一層痛切だのに、その子供のために勤められず、まとまった内職も出来ないという事情のために生れている悲劇はどんなに多いでし
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