導する帝国主義の侵略戦争はまちがっていると考えた者は、国賊として罰せられました。幼な児の如く信じた国民がその結果としておかれた今日の生活の破綻の中からめざめて、不合理な生産と、経済の事情を民主的に改善しようとしはじめたのは当然であります。日夜辛苦して家政をみている婦人が共にめざめたのも当然です。めざめた人民の命を削りながら日一日とひどくなるインフレーションに対し、はじめからインフレーション政策をとっている石橋が今ラジオで再び幼な児の如く政府を信じろというとき人民は目をみはります。今になって幼な児になって餓死して天国に入ることは欲しない人間の大人の分別を呼びさまされます。
 特権階級の政治的無能と没落のしるしを聖書のことばで瞞着するということは世界のどの歴史の蔵相もあえてしなかったことです。日本の蔵相は人民を愚弄しています。
 この場合、婦人代議士は何をしているでしょう。彼女達の多くは何といって話をしてよいか知りません。なぜなら大部分の人が有産階級の人ですから。昨今婦人代議士のいうことは戦時中村岡花子や山高しげりその他の婦人達が婦人雑誌や地方講演に出歩いて、どうしてもこの戦いを勝たすために、挙国一致して「耐乏生活」をやりとげてくださいと説いてまわったと同じような「耐乏生活」の泣きおとしです。今日彼女達はいいます。「戦時中あれほどの犠牲にたえた婦人の皆さん、どうぞあのときを想い出して窮乏に耐えて下さい。」しかし、あのときを思い出せということは戦争で殺された夫と兄弟、父親、息子を想い出すことです。忍耐深い日本の女性の努力と涙でしのいだ年月は、その結果として社会生活の全面と愛を破壊しました。日本の幾百万の女性は今日婦人代議士のある人々がいうとおりはっきり目を開いて戦時中を思い出しましょう。そこにどんなむごい過労と悲しみと淋しさとはかない希望とがあったかを思い出しましょう。そのはかない希望が幾百万の女の胸の中で打砕かれたかというその事実を一つ一つ思い出しましょう。そして思い出したとき、苦労でかしこくなった日本の婦人の心にはどんな考えがうかぶでしょう。だれにしろまたあのときをそのまま繰返えすには自分達のはらった犠牲があまり多かったことを知るのです。自分達の失われた愛にかけて少しは理屈にかなった人間らしい生活をうちたてたいと思います。日本の人民の民主化の途には数百万の人柱がたって
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