て来た峯子は、正二が自分たちに置いた抑制の意味を、正二のほんとうに男らしい、寧ろ良人らしい深い思いやりからとして考えるようになった。
 峯子のひとりの生活をしのぎ得るものとしているのは、開花した花びらが風に誘われるもろさを知らず、未熟かも知れないが、おのずからの堅固さで希望をもって暮らせているのは、何故だろう。
 御褒美と云った正二の表現は、あたっている。最も厳粛な意味であたっている。
 自分たちばかりでなく、今日の日本に生きる幾多の若い男と女との、真面目な心にもあてはまることかもしれない。
 省線の駅から燈火管制で暗い大通りへ出た峯子は、住居へ曲る角をすこしゆきすぎて、もう店先へ水を流している魚やへ一人前の配給をもらいによった。



底本:「宮本百合子全集 第五巻」新日本出版社
   1979(昭和54)年12月20日初版発行
   1986(昭和61)年3月20日第5刷発行
親本:「宮本百合子全集 第五巻」河出書房
   1951(昭和26)年5月発行
初出:「婦人朝日」
   1941(昭和16)年4月号
入力:柴田卓治
校正:原田頌子
2002年4月22日作成
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