れは二つへの御返事となります。
きょうは、暖い一日でした。今、夜の八時前。食堂のテーブルに久しぶりでわたし一人。ホーサンを一杯といたビンと、黄色いガラスの瓶に二本の半開のチューリップ。南の庭に向うガラス戸はまだ雨戸をたてられず、月のある柔かい夜気が黒く見えます。廊下の方から室内をみると、夜に向ってしっとりしている大きいガラスの面やテーブルの上の花が、いかにも春宵という風情です。そういう空気を何とも云えずよろこばしいと感じながらこれをかきはじめました。どっさり、どっさりの話があります。先ず二つのお手紙について。
そうね、こうしてお手紙をよむと三月二日ごろはまだ毎晩のように雪が降っていたのでした。お彼岸の日からすっかり春めき、ことしは珍しく明瞭に春の彼岸というものを心にとどめ、わが肌にとどめました。冬はきびしかったわねえ。このお手紙と次のお手紙との間に、梅は咲き出しているのも季節のおとずれです。そして、あなたの赤ぎれもいつか消えてすべっこくなりましたろう? わたしの手もわたしの手に戻りました。アロウスミスわたしはまだです。「風に散る」との相違は、たしかにおっしゃるとおりであろうと思いま
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