否が不明なのに、電話がかかれば其をのがせなくて出かけて行く生活も大抵でない、と。今は、平常ののびやかさというものは、どこにもないのがあたり前となりました。例えば、わたしの行く家で一ヵ所として室内がちゃんとしているところはないわ。いざという時外へ出すものそういうものが椽側に出ています。壕代りに戸棚が開いていて、いろいろのものが出され積み重ねられています。うちだって、先ずあの風情ゆたかな玄関が、出そこねたコモ包みで荷揚場のようです。そして内玄関へまわると、すこし広いところに焼けぼっくいの材木やトタンがきな臭くつまれて居ります。
七時に帰るのが十時とは可哀そうね。どんなに疲れるでしょう、帰ったら顔洗うように、とお湯わかしてあったのに、もう火がないわ、きっと。でも勝手に炭をつかうとわるいし。炭どこでもないないよ。お湯を、フトンの中に入れて来ましょうヤカンを。そしたらいいわ、帰ってお茶をのむにも、ね。
留守番の間に、厚生閣から十五年に出た『短篇四十人集』というのを見ました。十五年頃の作品の内容は、ひどいものねえ。作家と云えないような、習作が作家いって並んでいます。なかでは、尾崎一雄のが作家ら
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