従弟で、フランスへ交換学生になって行っていたのはグルノーブル(スタンダールの生れた町)にいてシベリアを経て帰りました。緑郎について、生活ぶりについて、いつか私が心配して居りましたろう? やはり其処がピンぼけで、くっついてろくなことはなかったわけです。そういう気分でそういう目に遭うと、人間はなかなかましなものになっては抜け出ませんからね、惜しいことだわ。それにつけ、緑郎の細君が、ああいう生れの人だったことを残念に思います。社交的な一種の環境を外側から見る力はないでしょうからね。揉まれて妙なコスモポリタンが出来上っては人間としてローズものです。残留したということはマイナスに転じました。どうなって帰るかということには心がかりがあります。
 卯女の父さんは応召して長野の方へ行きました。卯女と母さんとは一本田[自注21]の田舎の家へ行くそうです。直さん[自注22]の細君が久しい病気の後死なれました。柳瀬さん[自注23]という画家が甲府へ疎開準備中新宿との往復の間、駅で戦災死されました。実に気の毒です。鷺の宮は相変らず。近所へ戸塚の母[自注24]と子が越して来ています。どちらも昨今は収入がないから
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