こういうリズムのない万年休日のダラダラ繁忙は辛棒し得ません。大の男が、何を考えているか分らない眼をして炉辺に一日いるのを見てもいられません。
 わたしの人生はゴクゴクむせんで流れて居ります。胸のしめられるような思いで。ですからね、大いに智力を揮って、その熱い流れを、生産的な水源、発電所に作らなければね。
 こんな生活の中で折角のわたしが何となく気むずかしく鬱屈したユリに化してはたまりませんものね。
 ブリュラールはね、今五七頁のところです。お祖父さんが布地屋の倅に本をかしてやりこの利溌でない本ずきが、あとで継母になったマダム・ボレルという女に「マダム正直者の言値は一つしかありません」と云って、かけ引をする女の前から布をしまってしまったというところよ。可哀そうなムーニエね、きっとこのマダムは継母になったあと度々これを父親に話したにきまっていてよ「ムーニエったら」と。そして親父の遺言から何フランかをへずらしたのよ。(バルザックによれば)

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[自注15]アキ子――寺島あき子。
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 六月二十三日 〔巣鴨拘置所の顕治宛 駒込林町より(国立公園小豆
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