と冗談云ったらあの調子で、団子坂と肴町の間のやけのこり区域が又苅りとられました。幸うちの極近くへは落ちず。しかしシャーを三度ききました。二度目のシャーが終ったら、男が一人スタスタ入って来て御苦労さまと先生に挨拶しています。誰かと思ったら菅谷さんの父親でした。当直で田端駅に泊っていました。「奴等[#「奴等」に傍点]」が(そういうの)田舎へ行って私一人だから心配して、段々こっちなので駈けつけてくれたの。このひとはこういうこころもちの男です。〔中略〕「先生がいてよかった。おくさん一人かと思ったんで」と汗ふいていました。大変うれしゅうございました。
 六時になって朝飯炊いてみんなにたべさせ、出かけるものは出てしまい、わたしとペンと其から一寸眠りました。久しぶりだったせいでひどく疲れました。午後は眠りたいけれ共夜目がさめると困るので床につかず。〔中略〕台所の手入れをし、それからこれを書きはじめました。ボーとなっていても台所は出来るという発見をして、台所やるようになったのだからわたしも練達したものです。人造石の流し、斜に光のさす窓でものを洗っていると、ああ江場土の井戸端が恋しいと思われました。あの
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