汽車にのり来る

おみやげの玉菜三つをもち重り十日目にまた焼跡に帰る

帰り来て雨戸あくれば焼跡をふかく覆ひて若葉しげれる

この年の五月若葉はこと更に眼にも胸にも濃く映るなり
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[自注14]五月二十一日――千葉県長者町に暮している妹寿江のところに行ったときの手紙。
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 五月二十六日 〔巣鴨拘置所の顕治宛 駒込林町より(封書)〕

 五月二十四日
 昨夜は、そちらの方角はおさわりなかったと存じます。それでもおやすみになれなかったことは同様でしょう。
 きのう、うちは、こんな工合だったのよ。先ず話は十九日に逆[#「逆」に「ママ」の注記]ります。わたしが帰って来て食堂に坐るや否やO子が、食事がたべられない、体がだるくて臥ていたと立てつづけに訴えます。細君である女が、そういう調子になれば、大体どんなことか想像されるというものですが、わたしはあなたも一つ田舎へ行って来なさい、と云いました。御目出度でないというのなら空襲神経衰弱なのかもしれないから行って来て気分をかえてさっぱりしなさい、と。台所も何も放ったらかしでやり切
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