れません。生活上の配慮を一人で万端やって、それも不馴れだから対人的にも十分しっとりと落付き切れないようになってしまうのでしょう。菰垂れの姫よ。現代の。それをあのひとは向う意気のつよい人だから頼りなさをそのままに表現しないで、こわいものなしという風に体でも言葉でも表すから(つまりの弱気)あのひとのいじらしさがしんから分るまでには時間のみか、情況の適当なめぐり合わせが入用という手のこんだことになってしまうのね。菰垂れの家は、ぐるりに豌豆の花を咲かせながら、清純な江場土の空と柔かく深く大きい夜の中に何と小さくあることでしょう。あんなところに、ああして、あのひとがいる、ということは普通のことではないわ。ローソクの光で、夜、一人きりのとき何年ぶりかで心から弾いたピアノの響も忘れかねます。わたしの生涯のうちでも独特な意味をもった十日でした。時期といい内容と云い。たった十日がこんなに充実ししかも永続する意味をもって過されたことをよろこんで下さるでしょうと思います。わたしがいた間、もし寿に気の毒なことをしたと云えば、其は、一度ならず、あなたのお好きなものを、ついあなたに結びつけて噂してしまったことだと
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