ーロッパ的規模に近づいて参りました。朝、小型数十機という情報をきいた瞬間、段階が一飛躍したと感じました。一昨日は夕飯前まで戸外(壕)と台所の板の間とで暮し、夜は国が食堂に臥てラジオの番をいたしました。わたしは、又次の日どんなにして暮さなければならないかしれないから二階でふだんのように眠りました。きのうはましでしたね。しかし遠からず、あの時はまだ延千ぐらいだったのだものと云うことでしょう。益※[#二の字点、1−2−22]よく暮し度胸もよく暮したいと思います。
国、昨夜十一時に開成山へかえりました。咲の方が手つだいいなくなって、手紙かく間もない生活となり、何かあったら全く太郎一人が対手なので、切符入手出来たのを幸、一番安全そうな時間を見計らって急に立ちました。菅谷君出張、細君田舎行。昨夜|又候《またぞろ》たった一人で、田舎から帰れるかどうか分らないから三四日は一人とあきらめていたら、けさ其でも細君帰れました。これでよかったわ。女だって二人ならば、ね。いよいよ地下生活の時期になった、と新聞で書いて居ります。これ迄も壕で昼飯をたべたことは一昨日までに一二度はありました。うちの壕は入口のフタの傾斜がゆるやかでカンノン開きで見てくれの薄板で、それが弱点ね、機銃の玉なんかいくらでも通ります。其に、生活万端やるとすると狭いわ、一人で一杯です、電燈もないし。
国は荷物もってゆくつもりで例によってどたん場まで愚図愚図して居たら、一昨日以来一般小荷物受付中止で、家じゅうひっちらかしたまま、自分のふとん[#「ふとん」に傍点]さえしまわず行ってしまいました。〔中略〕まあ今時の往来ならそんなものかもしれませんけれど。当分小包も受付中止よ。田舎からは来るのでしょうね、さもなければ、わたしたち干物よ。
この間の火曜日、ね、お目にかかって帰って来て、午後から友達が来ました。何だか四角いものをふろしきに包んで、はいとくれました。近頃は勘がよくなっていてね、其はすぐお重とわかりました、が、どうして又こんなおみやげがあるの? と訊いたら、いやあね、お誕生日じゃありませんか、とぶたれてしまいました。本当にそうだった! マア、マアとびっくりして、よろこんで又呆れられてしまいましたが、わたしはしんから可笑しゅうございました。だって、火曜日にお会いして、十三日なのをわたしは勿論忘れていたし、あなただって決して特別に意味のありそうな顔つきをしていらっしゃいませんでした。こうしてみると、誕生日そのものよりも、日々をどう生きているかということが切実なのだと改めて思い又、いかにもいそがしいのだと痛感いたします。忙しがって生きて、誕生日を忘れているのも今時のお目出度さなのかもしれません。十二月二十日に国が開成山に発ち、その午後寿が来て、一月二十九日、国の帰る日まで居りました。それからきのう迄、国がひとを使う使いかたと云ったら。使っているようでは一つもないけれど。〔中略〕
わたしはきょうは、本当にお風呂にでも入って髪でも洗ってさて、と自分の暮しをとり戻したさっぱりしたよろこびをあらわしとうございます。残念なことにどっちも出来ないわ。お風呂はボイラーの底抜けが直らず、目白からもって来た桶はまだ煙突がないの、おまけにすこし底があやしいのよ。髪を洗うことは、疲れすぎて昨夜風邪ぎみでしたから、やめなければなりません。
きょうは、どこの家でもくつろいでいるのね。こうやっていると、カナリアの囀る声に混って、うれしそうにさわいでいる隣の子供の丸い足音、人の声がいたします。さっき台所の裏の氷った道を、組長さんの近藤さん(うらのはなれに住んでいる画家)が鼻歌をうたい乍ら通りました、そんな気分なのよね、だれもが。国が来たらお米の不足の騒ぎまでひとりで才覚しなくてはならぬ始末でした。国という人は永生き性よ。留守の間に二人分配給のあった米が、不足な訳はない、という根拠で、わたしが気をもんで苦心していても感じないか或は一言もふれないのよ。凄いわ。そして、自分は「田舎のおなか」で東京暮しをいたします。寿が逗留していたにしろ、寿は米をもって来るべきであり、従って来た筈であり、わたしが寿にお米なしでは駄目だと云えないということはあり得ないこと、なのね。そういう生活態度は何か憎悪を起こさせます。そして、こうやってあなたに毒気を吹きかけたくなるのよ、御免なさい。わたしは、私たちの生活上必要な一つの〔検閲で削除され不明〕だと考えてこういう生活もちゃんちゃんやって行こうと決心していて、それで大分辛棒いいのですけれど、まだまだね。どうしても毒捨袋の口がゆるんで、ついあなたに何か訴えてしまうから。
図書館ゆきのこと、金・土と実現不能で気にして居りましたら、目白の先生が昨夜見舞によってくれました。早速お手紙を引きくらべ
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