わずかたまってちぢみこみました。又、キューンというの。焼夷弾よ、見なくちゃ、さア、ととび出して見ても分らない、うちに、パン、パーンとごく近くで落ちたのが爆発する音がいたします。近いわ、そのつもりで。とわたしは二階へかけ上り、あっちこっちあけて様子を見たら南の高村さんの屋根の裏がもう火の手です。やっぱり電話局よ、白いからね、と見ているうちに火はひろがり外へ様子見に行った菅谷君の話では電話局の前の通りで林さんというお医者もやけてしまったらしいとのこと。細君は、肴町の通りの春木屋という鳥やね、あすこが生家ですから、そっちを心配し御亭主はかけて見にゆきそこらの状況が分りました。細君も実家を見にゆきたいというのよ。風が北だからこっちは安心だから行くといいわと云ったら息せき切って戻って来て、奥さんそれどころじゃありません、団子坂の角がやけていて門の前から非常線で通れません、というの。じゃ一寸見て来るから、と門へ出たら門から非常線で団子坂の角の米やがあったの御承知でしょうか、あすこから鴎外の家のあったところ、そのずーっと先まで火の由。いろいろの情報を綜合してこちらは丁度巨人の歩幅の間に入った小人のような位置だったと分りました。うしろと斜前、横、爆弾でした。それぞれ小一丁もはなれて居りましょうか。
 第二次、第三次と来たときまだ火が見えて心配し、電燈もとまり警報もきこえず月明りをたよりに土足で家じゅう歩きました。日大病院もやけました。相当の範囲ね。こちらの側は、団子坂の角あたりと、その線をのばしてすこし上へ上ったところで星野という家につき当る角がありました、あの一寸入ったところ位で止りました。
 けさは疲れて八時前御見舞に来てくれた国男の友人に会ってから又、湯タンプをあつくして眠り十一時までぐっすり眠りました。千駄木小学校・駒中・郁文へ避難した人々が一時集っていて、こちらの前の通りの人通りは遑しゅうございます。
 水が不足ね、何しろ乾いて居りますし。凍って居りますし。大体どういう風と分ったのはいいが、あんまり瞬間の判断も出来ない程の突嗟のことで、其には閉口ね。本当の塹壕生活ならいいが、こうして日常性とそういう異常性とが交錯した生活はこれから益※[#二の字点、1−2−22]大変でしょう。こちらの組の米、味噌、マッチ類の配給所もやけてしまいました。今度の月番は大変でしょう、こちらは丁度
前へ 次へ
全126ページ中12ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング